生命科学班(A01-2)

研究課題名:スパースモデリングによるNMR計測・解析の高速高精度化

研究代表者:木川隆則(理化学研究所 生命システム研究センター チームリーダー)
研究分担者:池谷鉄兵(首都大学東京大学院理工学研究科 助教)
連携研究者:葛西卓磨(理化学研究所 生命システム研究センター 研究員)

研究概要

核磁気共鳴法(NMR)は,非侵襲的に分子構造動態を探る最も強力で汎用性の高い計測手法の一つである.近年の装置技術の著しい進展により,タンパク質等の複雑な生命分子の計測が可能となったが,計測データ量が多く計測時間が長く,得られるスペクトルは複雑でデータ解析は煩雑である.さらに解析データ数の増大により,立体構造を得るための計算も煩雑で時間を要する.本計画研究は,図1に示すように,NMRデータや生命分子の構造情報が有するスパース性に着目して,スパースモデリングの導入によりNMR解析の複雑さ・煩雑さに起因する問題を解決することにより,生命分子のNMR計測やデータ解析の高速・高精度化の実現を目指す.

本研究の背景と着想に至る経緯

タンパク質や核酸等の複雑な生命分子のNMR計測では,データ量が増加して計測が長時間化し,不安定な生命分子試料は計測中に壊れる傾向が強く解析が困難な試料も多い.そのため短時間で高精度のNMRデータを計測する手法の開発が求められている.NMR信号は通常計測時に線形標本化により記録されるが,近年,非線形標本化により計測データ数を減らし最大エントロピー法や圧縮センシングでデータ補間することで,計測時間を短縮する手法が提案された.またスペクトルは複雑でピークの分離識別が困難で精度の高いデータ解析が困難であり,解析データに基づき立体構造を求める計算においては,広域な構造空間の探索が困難で局所解へトラップされ最適解の導出が困難なことが問題となっていた.

我々は,NMR法を用いた大規模な生命分子立体構造解析(構造ゲノム科学研究)や生体系NMR領域における業界標準構造計算ソフトウエア開発への参画により得られた成果や経験を踏まえて,スパースモデリングの導入により生命分子のNMR計測やデータ解析を高速・高精度化して,複雑な生命分子系を対象にしたNMR計測の発展を促進することを着想した.

本計画研究の目的

本研究計画は,NMRデータや生命分子の構造情報が有するスパース性に着目し,スパースモデリングの導入により生命分子のNMR計測やデータ解析を高速・高精度化することにより,複雑な生命分子系を対象にしたNMR計測の発展を目指し,以下の三つの課題を中心に研究を進めていく.

【課題1】NMR計測の高速・高精度化

NMR信号をスパースに計測し,スパースモデリングによる信号処理によりデータ補間をおこない,計測時間の大幅短縮とスペクトル品質の改善を達成する.

【課題2】データ解析の高速・高精度化

複雑な多次元スペクトルのピーク分離識別能を向上させ,さらに解析の自動化を進めることにより, NMRデータ解析の高速・高精度化を実現する.

【課題3】立体構造計算の高速・高精度化

ベイズモデルに基づくデータ解析から客観・定量的にパラメータ設定するアルゴリズムを構築し,レプリカ交換モンテカルロ法により最適解導出を可能にして,立体構造計算の高速・高精度化を実現する.