天文学班(A02-3)

研究課題名:スパースモデリングを用いた超巨大ブラックホールの直接撮像

研究代表者:本間希樹(国立天文台水沢VLBI観測所 教授)
研究分担者:植村誠(広島大学宇宙科学センター 准教授)
研究分担者:加藤太一(京都大学理学系研究科 助教)
連携研究者:野上大作(京都大学理学系研究科 准教授)

研究概要

ブラックホールは本当に存在するのだろうか?多くの銀河の中心核には巨大ブラックホールが存在すると現在考えられているが,これらが事象の地平線に囲まれた真のブラックホールかはまだ確認されていない.ブラックホール存在の「究極の証明」を得るためには,ブラックホールの大きさ(シュバルツシルト半径)程度の分解能でブラックホールを観測し,ブラックホールが周囲の高温ガスを背景に"黒い穴"として浮かび上がる構造,いわゆる「ブラックホールシャドウ」を観測することが必須である.本計画ではスパースモデリングの手法を電波干渉計観測に適用し,超解像イメージングにより「ブラックホールシャドウ」の検出を目指すとともに,その質量やスピン,降着円盤温度などの物理量の抽出も狙う.

本研究に関連する国内・国外の研究動向及び位置づけ

ブラックホールシャドウの撮像には,サブミリ波帯での超長基線電波干渉計(VLBI: Very Long Baseline Interferometer)による近傍の巨大ブラックホール観測が最も有効であることが知られている.これに最適な天体は,我々の銀河系中心のブラックホール候補天体Sgr A*(いて座A スター)と,おとめ座のM87銀河の中心核ブラックホール候補の二つで,その半径は約10マイクロ秒角(~4 億分の1 度)と推定される.ブラックホールシャドウの直径はブラックホール半径の数倍〜5 倍程度であり,その撮像には10 マイクロ秒角レベルの高分解能が必要である.この観測実現を目指すのが,日本を含む国際協力でサブミリ波VLBIの実現を目指すEvent Horizon Telescope (EHT)プロジェクトであり,2015 年頃チリの大型電波干渉計ALMAが参加した高感度な観測の実現を目指している.ALMA が参加したEHT 観測では波長1.3mmでの観測で約25 マイクロ秒角の分解能が期待され,ブラックホール撮像まであと一歩のところまで到達すると考えられる.

本計画研究の目的

本計画研究では,スパースモデリングの手法を電波干渉計によるブラックホール観測に応用して超解像イメージング技法を確立する.さらに、それをEHTによる実観測に適用してブラックホールシャドウの直接撮像を確実に成し遂げるとともに,ブラックホールの物理パラメータ抽出など,ブラックホール研究分野で科学的成果を挙げることを目指す.以下に、本計画研究で目指す3つの 課題をまとめる.

【課題1】スパースモデリングによる超解像技法の開拓

電波干渉計の回折限界は,観測量不足のために基礎方程式が不良設定問題になることに起因しており,スパースモデリングで不良設定問題を解くことで超解像が達成できる.電波干渉計観測に適用可能な超解像技法を確立するために,基礎方程式や観測ノイズ,期待されるイメージの性質などを考慮し,電波干渉計の問題に最適化された超解像技法を開発する.

【課題2】超解像技法によるブラックホール撮像

EHT によるブラックホール観測を国際協力で行い,【課題1】の技法を実データに適用してブラックホール近傍の超高分解能画像を得,ブラックホールシャドウの直接撮像を狙う.

【課題3】ブラックホールの物理量抽出

【課題2】で得られる画像から,ブラックホールの物理パラメータ(質量,スピン,降着円盤の傾斜角など)を抽出する.具体的には,無数にあるシミュレーションと観測の比較にスパースモデリングやMCMC を応用し,観測を最も良く再現するブラックホールの物理量を求める.